カルテのこと
皆さん、カルテという言葉を聞いたことありますよね。
これは元々ドイツ語で、診療録の事を指し、医療に関する診療経過等を記録したものであり、英語ではmedical recordと言います。5年間の保管義務がありますが、最終来院から丸5年、一度も診察を受けに来ないと処分されてしまいますので、お気を付け下さい。
最近はデジタル化の波が医療の世界にも押し寄せており、カルテは紙カルテから電子カルテへ、レントゲンはCR装置と言ってフィルムを現像しない、いわゆるフィルムレスの方向に向かっています。当院も他の医療機関同様、数年前からCR装置を導入し、その便利さを享受しておりますが、電子カルテは未だ導入しておりませんし、今後も当分の間は導入しない方針です。その理由は、すでに電子カルテを導入している大勢の仲間の医師達からの評判が芳しくないからです。電子カルテの入力に忙殺され、医師が最も大切にしなければいけない、患者さんとの会話の時間が減ってしまうといった、電子カルテに振り回されている現状を聞かされる度、当院ではこのソフトがもう少し改良されるまで待とうと決意を新たにしております。
さて当院で私の診察を受けたことのある患者さんは既にお気付きの事と思いますが、私は診察中に度々セロテープで、傷んだ紙カルテの修理をしております。これは以前先輩からも教えられたことですが、カルテは医療機関にとって取扱注意の大切な宝物であり、様々な場面で極めて重要な役割を演じる貴重な公文書であると考えているからです。
毎月初めのレセプト(厚生労働省への請求書)作成は、カルテを参照して行ないますし、様々な問い合わせに対する資料としたり、裁判になった時などは証拠書類ともなります。私はカルテの記載に際し、日本語、英語、独語の入り混じった不思議な言語で行なっておりますが、それは患者さんの病態を最も適切に表現できる言語を適宜選択した結果と、ご理解いただけたらと考えています。
昔から医師の間では、カルテを見ればその医師の実力が分かると言われています。私もここ一番、自分のカルテが公の場に引きずり出された時、恥ずかしい思いをしなくて済むような、品格のあるカルテを書きたいものだと、毎日の外来の、殺人的な忙しさに追いまくられながらも、常に考えております。そしていつも心掛けているのは、何か人に問われた時、出来なかった言い訳をするよりは、何とか成し遂げるに至った過程を、自分は単に運が良かっただけと言いながらサラリとお話できるようにしたいという事。
今年も、心にいつもゆとりを持ち、柔らか頭で、様々な難題に対応して行きたいと考えています。