ジェネリック医薬品のこと
最近ジェネリック医薬品が次々に姿を消し、外来が混乱しています。先日も当院の主力処方薬である筋弛緩剤(肩こり、腰痛などに処方)が入手困難となり処方が一時ストップし、患者さんには多大なご迷惑をおかけしてしまいました。
その原因はその生産に携わるメーカーが生産現場から撤退している為です。現状は生産中止の知らせが入るたびに事務長が薬問屋さんと相談して新たなメーカーを探している状況です。
これと関連する話として1997年8月、田辺製薬がラボナール(チオペンタール)の生産中止を発表した当時のことが鮮明に思い出されます。この薬剤はとても使い易く効果も確実で価格も安いということで日本中のほとんどの病院が日常的に全身麻酔の導入剤として使用していましたが、突然の生産中止の発表に麻酔科医達は一時大混乱に陥りました。生産中止の理由は極めて明快であり、厚労省の指示で薬剤価格が不当に安くされた為、生産すればする程赤字になるからということでした。
これ以外に代替可能な薬剤が無かったこともあり、全身麻酔を伴う手術が出来なくなって一時社会問題にまで発展しました。この時は日本麻酔科学会が中心となり厚労省に強く抗議して薬価を上げさせ、田辺製薬側も納得して生産が再開されました。さて厚労省は医療費削減を至上命題に掲げ、値段の安いジェネリック医薬品を処方するようにと、さまざまな方法を用いて半ば強引に誘導しています。
2年毎に薬価改定と称して5%~10%程度クスリの値段を下げ続けていますが、新薬の価格が異常に高い反面ジェネリック医薬品の価格はかなり安く抑え込んでいます。患者さんからすればクスリの値段は安ければ安い程ありがたいという事になるのでしょうが、その結果採算割れするという理由でメーカーが生産現場から撤退してしまい、外来で治療上必要なクスリの入手が困難になるという事態が起こっているという事は是非皆さんに知って欲しいと思います。こんな中、先日もジェネリック医薬品メーカー2社の不祥事が発生しましたが、薬価を低く抑え込まれた中、何とかして利益を確保しようとして起こるべくして起こった事件として私は認識しています。
勉強不足のマスコミは日本の医療費が高いなどとトンチンカンなことばかり言っていますが、日本の医療費はアメリカと比較して異常に低く抑え込まれおり、 医師の診察その他の技術料はアメリカの2割程度です。さらに言うならニューヨークで盲腸の手術を受けると一泊の入院で約250万円、これに対して日本では1週間入院出来て約40万円です。このように海外に比べて格段に安い医療費で運営されている日本の医療を支えているのは自己犠牲と奉仕の精神を叩き込まれた医療従事者達であるということも時々思い出して欲しいと思います。
そして会計検査院の機能をもっと強化し、税金の無駄遣いを止めさせ、社会保障への予算配分が適切に成されることを切望します。 2021.8.19