わたなべ整形外科関連

HOME > 院長渡辺邦夫ブログ > わたなべ整形外科関連 > 「日本の医療危機の背景にあるもの」
2020年12月18日

「日本の医療危機の背景にあるもの」

最近のコロナに関する一連のメディア報道を受けて、私が毎回違和感を覚えるのは医療機関に関する部分です。簡単に言うとマスコミ側の勉強不足が目立ちます。何故医療危機なのか、何故医療崩壊なのか?その根本原因にまで切り込んで情報収集し報道するジャーナリストが不在です。政治家やある程度インテリジェンスの高いオピニオンリーダーも含め、日本の医療に関する正しい知識が不足しております。COVID-19感染者が増加して医療現場が逼迫し、追い詰められ燃え尽きたナースや医師たちが次々にコロナ最前線から離脱して行く現実を一般市民たちはどう捉えているのでしょうか。恐らくはマスコミがこの状況の背景を正しく伝えていないため多くの誤解や偏見が生じていることと思いますが、これらの主な原因は日本の医療費が安すぎるという所にあると私は確信しております。簡単に言うと米国の病院では医師、ナースを含めたすべての分野で日本の約10倍の職員が働いています。これだけ大勢の職員を雇えるということはそれだけ病院の収入が多いということです。初診料、再診料、検査費用を含め、あらゆる技術料が日本の5倍前後高く設定されている米国では病院内での分業が徹底されており、ナースがシーツ交換や院内清掃、患者さんの運搬などをしておりません。ハウスキーパーや患者運搬係、ドクターエイド(医師の診察をサポートし電子カルテを打ち込むなどの業務をする秘書)などなど日本には無いさまざまな職種があり大勢のスタッフが働いていて、医師やナースは専門職にしか出来ない業務に専念することが出来ます。外来診療に関しても、日本の医師は毎日米国の8倍の数の患者さんを診察していますが、一回診察当たりの平均医療費は米国の1/10、給料は米国の半分です。ナースに関しても給料は米国の半分位と考えて間違いありません。こんな中、厚労省がここ10数年医療費削減のアクセルを踏み続けた結果、全国の大半の公立病院は赤字となり、それ以外の医療機関も経営的に疲弊し切っており、十分な人材を確保することが出来ず慢性的な人手不足となっております。これは正に「日本の医療を問い直す」の著者、鈴木 厚氏の語る、「医療関係者の献身的な自己犠牲の上に成り立つギリギリの綱渡り的経営状況」そのものと考えます。また平成8年頃から厚労省は全国の保健所の数を800から500前後にまで減らしており、その状況下、人手不足の現場でCOVID-19に対する万全の対応が困難であったのは当然と言わざるを得ません。広く国民から集めた税金をどう使うべきか、政治家や行政担当者の責任は極めて重く、ここは大いに猛省し世界標準の診療報酬制度に少しでも近づけるよう改善して欲しい所であります。  2020.12.17