クスリのリスク
先日、新聞の論説記事の中に「クスリとは、逆さに読めばリスクである。 」というフレーズがありました。
これを読んだクスリ嫌いの患者さんは、我が意を得たり、とばかりに拍手喝采かと思います。
確かにクスリに副作用は付き物です。たとえば高血圧などの場合、日常生活の指導だけではどうしてもコントロールできない方にクスリを処方しようとする時、「このクスリは一度飲み始めると、ずっと飲まなくちゃあいけないんでしょう?クスリの副作用も怖いし飲みたくありません。」という方が多くいらっしゃいます。
しかしよく考えてみると、クスリを飲んで長生きするか、飲まずに早死にするか、どちらがいいですか?ということが問われているのであって、ここは冷静に服用することを選択すべきかと思います。最近の医学の進歩は目覚ましく,副作用の発現を最小限に抑え込んだ、有効で安全な薬剤が次々に開発されています。
さて、私が日常診療で患者さんの治療をする際いつも心掛けていることは、患者さんを自分の最愛の肉親や友人に置き変えてみるという事です。これは治療全般を通じて行っていることですが、痛みを伴う治療や、副作用の出る危険性のあるクスリを処方する場合などは特に慎重に、例えばこの治療、このクスリを自分の親に勧めるだろうかなどと考え、治療を行う上での自分なりの判断基準にしています。
クスリを処方する際もう一つ重要な事は、そのクスリを処方した場合の、患者さんの受けるメリット(クスリの効果)とデメリット(クスリの副作用)を天秤にかけ、そのメリットがデメリットを上回った時だけクスリを処方するという大原則です。
さらにもう一つ悩ましいのは、情報提供の問題です。どんなクスリにも多少の副作用はあります。製薬メーカーから提供される能書といわれる、クスリについての詳細な説明書(添付文書)の中には、ありとあらゆる副作用が列挙されています。これを患者さんが見たら、多分ほとんどの人がクスリを飲むのを躊躇すると思います。しかし何十万人に一人という極めて稀に起こるかもしれぬ副作用を恐れるあまり、有効な治療薬の服用を拒否して病状が悪化したとしたら、それはナンセンスと言われても仕方ありません。
ここはやはり医師が、責任を持ってクスリに関する詳細な情報を収集し、その病気の治療に最適なクスリを選択し、患者さんに誠意をもって説明し、注意深く使用する義務があると思います。
この際、主治医はその患者さんから全幅の信頼を寄せられている事が大前提ですが。