私が介護保険事業に参入しない理由
わたなべ整形外科は1989年(平成元年)10月に有床診療所として開院しましたが、平成14年9月に入院の受け入れを廃止し、無床診療所に組織変更しました。これに伴い、入院施設として使っていた2階の空きスペースをどう活用するか、さまざまなアイディアが浮上しました。当時は、平成12年4月に始まった介護保険事業者の認定を早い者勝ちで受け、これにより先細りとなっていた医療保険収入をカバーしようというのが大きなトレンドでした。
当院も「療養型病床群」の申請をして認可が下り、2階のスペースを有効活用する予定でしたが、熟慮の末、認可の取り消しを願い出るという事にしました。
私の知る限り、厚生労働省という所は、よく思いつきで新しい事業を始めますが、この際最初はとてもおいしい話として医療機関に提案し、その後ある程度出揃ったところで徐々に締め付けを厳しくして、その経営を圧迫して行くという方向で動く役所として認識しています。
この「療養型病床群」の話も案の定、数年後には介護報酬を大幅に削られたり、事業そのものを廃止するという方向に進み出し、施設基準に合わせて病室の改装工事までした医療機関は、散々な目にあったと聞いています。ちなみに2階は平成18年から美容皮膚科「ボヌール ビューティーメディック」となっております。
さて私が介護保険事業に参入しない最大の理由は何か、それは介護保険では原則として定額払い方式(いわゆる「まるめ」)が採用されており、利用者1人当り1日(または1回)利用、あるいは1ヶ月の利用に対し、定額払いが原則となっている点です。
これでは患者さんに対して思い切った、質の高いサービスは提供できません。やればやる程赤字になります。医療保険のような出来高払い方式と違い、介護事業者は一定額の報酬しか得られないので、多少でも利益を生み出そうとすると、スタッフの人数や待遇、患者さんに出す食事の質などを落としたり、その他さまざまな可能な限りの経費節減に努めなければなりません。私の基本的な性格から言って、これは不可能な事なので参入しないのです。
スタッフ一人一人が待遇に満足し、やりがいを持って気持ち良く働ける環境が整って初めて、通っていらっしゃるすべての患者さんに対して自然な笑顔での応対ができるものと確信していますので、低賃金・重労働が当たり前の、現在の介護保険事業への参入は、当院の場合、余程の環境の変化がない限り、あり得ない事と考えています。