医療問題

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2012年02月28日

天皇陛下の心臓手術

2012年2月12日、東大病院において陛下の心臓手術(ACバイパス)が行われました。これは心臓に血液を送り込む冠状動脈という血管が動脈硬化で狭窄し、十分な血液が供給できなくなった時に行われる手術です。

私が順天堂大学の麻酔科で研修していた頃は、人工心肺を使って心臓の拍動を一時的に止めて行なっていましたが、最近はスタビライザーという装置を用い、拍動を止めずに行うのが主流になっています。またバイパスに使用する血管も、当時の大伏在静脈から内胸動脈に変わり、手術の成功率も格段に向上して来ました。

私が注目したのはこの手術を担当した、天野篤という医師です。3浪して日大の医学部に入学し、卒業後は大学の医局に属さず、一匹狼としてさまざまな病院で武者修業を続けた後、2002年、順天堂大学の心臓血管外科教授に就任し、今回の陛下の心臓手術の執刀医として東大医師団から要請を受けることになりました。日本で最高の英知が集結すると言われ、極めてプライドの高い東大の医師たちが、恥も外聞も投げ捨て、母校の医師ではなく順天堂の天野教授に手術を依頼したということは、私にとってはとてもエキサイティングな出来事でした。

私は北大卒業後順天堂大学麻酔科に3年間在籍し、ペインクリニックや小児麻酔、心臓外科手術を含む麻酔全般、救急蘇生法など多くの事を学びましたが、当時順天堂大学医学部で順大出身の教授は麻酔科の茅稽二氏だけで、他の科はすべて他大学出身の先生達で埋まっておりました。

これはこの学校の伝統なのでしょうが、優秀な人材を広く公募し、各分野で最も高い評価を受けている医師を学閥の垣根を越えて教授として迎え入れるという、極めてフェアな空気が流れており、私も含め、他大学出身者だからと冷遇されることは皆無でした。順大医学部は学生も卒業生もレベルは極めて高いのですが、パラメディカルとのコミュニケーションも良好で、アットホームな雰囲気に包まれており、バリバリ勉強も仕事もこなしながら、お洒落に遊ぶという気風があったことを、今懐かしく思い出します。

直近の事情は分かりませんが、米国ハーバード大学でも、やはり母校出身者はハーバード大学の教授には就任できないという伝統があると聞いております。人材を広く求め、内向きにならず、常に新しい血を注入することで組織は活性化し、レベルを高く維持できるのだろうなと、今改めて感じています。