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2011年04月12日

我慢力不足(藤原正彦)

お茶の水女子大学理学部教授、数学者で、NHK教育TV人間大学で「天才の光と陰」を講演しておりました藤原正彦先生の教育論を産経新聞「正論」で見つけました。現代の日本の教育の問題に鋭い視点で切り込んだ論文です。 現代日本の教育の問題点は「我慢力不足」、「個性尊重」=「子供への恐るべき甘やかし」と論破する。

「まずは我慢力を身につけることだ」「理数離れ」が頭痛の種

産経新聞 「正論」 平成14年5月27日

 先日、英国の古い友人が我が家を訪れた。私がケンブリッジ大学にいた頃、教えていたコレッジの学長をしていた彼は、今は上院議員として国の科学技術政策を担う立場にある。夕食前の一刻、教育論に花が咲いた。彼の頭痛の種は、子ども達の理数離れである。

 彼は私に「原因はいろいろ言われているが、真の原因は何と思うか」と聞いた。私は間髪を入れず「我慢力不足」と答えた。彼は不意打ちをくらったのか、身じろぎもせず黙りこむと、しばらくして生気を取り戻したように大きくうなずいた。理数離れの原因については、我が国でも「考える力を育てず知識を詰め込み過ぎる」「時間数不足もあり面白味が伝えられていない」「教師の力量不足」 「科学に無関心な大人達の影響」などいろいろ挙げられている。どれも正鵠を射ているように私は思えない。

 理数系は、国語や社会のように寝転がっては学べない。机に向かいじっくり取り組むという面倒に耐えねばならない。それに問題はすぐに解けない。数学の問題などは、何時間いや何日も考えないと解けないことがいくらもある。解けないのは不快であり、それに耐えて考え続けなければならない。十秒考えて放り出していてはいつまでたっても実力はつかない。

「我慢を強いられた時代」

 現代は我慢力を培うのが難しい時代である。我が国には真の貧困が、有史以来40年ほど前まで存在した。真の貧困とはいくら働いても食べて行けない、という意味である。そのような社会において、子ども達は、おやつが欲しくても、時には御飯が欲しくても、我慢を強いられる。そのうえ両親は家族を生かせるために必死だから、子どもにも相応の仕事が割り当てられる。私の場合は雨戸の開閉、使い走り、風呂の水くみや風呂炊きなどだった。私が夏ごとに帰省した信州の農家の子ども達は、野良仕事にかりだされたり、田の水の調節や家畜の餌をまかされたりしていた。

 文明の発達した今日の豊かな社会で、子ども達は欲しいものをふんだんに与えられ、働かされることもめっきり減った。英国でも全く同様と友人は言う。我慢力がつかないはずである。

 我慢力不足は読書離れの原因である。テレビやマンガなどの映像に比べ、一つずつ活字を追う作業は、我慢力を要するからである。読書離れは理数離れよりさらに重大と言ってよい。理数離れは将来における科学技術力の低下、ひいては経済の退潮を意味するが、読書離れは、国民の知力崩穣を惹起し、国家の確実な衰退を意味するからである。

「子どもへの恐るべき甘やかし」

 豊かな時代だからこそ、親や教師は、我慢力養成のため子どもに厳しく当らねばならぬのに、今や子どもと友達関係になり果て、甘やかし放題である。教師は指導者でなく子どもの学習の支援者ということになっている。文科省のある委員会で私が「漢字や九九は厳しく叩きこむべし」と述べたら、ある教育学者に「それでは子どもが傷つく恐れがある」と反論された。高校生を対象とした国際調査でも、「親や先生に反抗してもよい」と「教室を授業中に出ていってもよい」を肯定する生徒の割合は、日本がきわ立って高い。

 この恐るべき甘やかしが、親や教師の不見識というより、流行の教育理論に支えられている所に現代日本の病根がある。この理論の根底にあるのが「個性の尊重」である。これがあるから「宿題は嫌い」「テレビ漬けやゲーム清け」「勉強も仕事もせずに気ままに生きたい」「野菜は苦手」はみな個性として大目に見られる。「ゆとり数育」も勉強をしたくない子どもの個性を尊重するがゆえの産物である。単なる甘やかしが「個性の尊重」という美しい言葉の魔力により、子どもへの「理解ある態度」と変貌するのである。

 ピアノが上手い、足が速い、数学ができる、といったよい個性を伸ばすのは当然であり、あらためて言うに及ばない。子どもの個性のほとんどは悪い個性であり、それを小学生くらいまでのうちに正すのがしっけであり教育である。この厳しい過程の中で、子どもは傷つくことをくり返しながら我慢力を身につける。家庭教育と学校教育は、機を見て個性を踏みにじることから始まる。

 文部科学省、教育学著、そして誰より国民が、「個性の尊重」などという美辞に酔いしれている限り、この国の将来は覚束ない。「個性尊重」という美辞に酔うなかれ

お茶の水女子大学教授 藤原 正彦(ふじわら まさひこ)
1943(昭和18)年、旧満州新京生まれ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。お茶の水女子大学理学部教授。1978年、数学者の視点から眺めた清新なアメリカ留学記「若き数学者のアメリカ」で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞、抱く持の随筆スタイルを確立する。著書に「遙かなるケンブリッジ」、「数学者の休憩時間」、「心は孤独な数学者」、そして「父の威厳 数学者の意地」--この本を読めば勇気百倍! これぞ家庭教育の指南書--(新潮文庫)がおもしろい。故新田次郎と藤原ていの次男。

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